何か面白そうなのないかなァ……とアマゾンで検索をするたびにオススメされていたので、手に入れてみた次第なのですが、作者の作品を読むのは初めてで、そもそも女捜査官というジャンル(サブジャンル?)自体にも詳しくないものの、なかなか堪能しました。
物語は、裏の政府組織に所属するヒロインが、ワルたちに拉致された相棒を取り戻すため敵のアジトに潜入をもくろむも、ミイラ取りがミイラになって、……という話。話の骨子そのものは定番といえば定番ですが、アマゾンの内容紹介にもある通り「美女捜査官を捕らえて監禁調教しっぱなし!」というストレート過ぎる展開は、女捜査官というジャンルに格別のこだわりを持つマニアにとってはかなり意見の分かれるところではないかな、という気がします。いや、上にも述べた通りこのジャンルにはまったく明るくないので、あくまで主観ではあるのですが(苦笑)。
ヒロインたちの組織の敵は、女を拉致した挙げ句、クスリによって格別の調教を施し「牝」と呼ばれる奴隷へと仕立て上げて売りさばくという、まさに官能小説においては絵に描いたようなワルの典型。冒頭、この組織に拉致されていた女性キャスターがある僥倖によって救出される一幕が描かれているのですが、テレビにも出演している女性も平気で拉致してしまうという悪辣ぶりが凄まじい。そして「牝」へと調教されてしまった悲惨な女性キャスターの姿を目の当たりにして、ヒロインはこの組織の殲滅を誓うわけですが、レズ友でもある相棒が早々に敵方に拉致されてしまうという期待通りの展開からかなり早急に物語は進んでいきます。
相棒を取り返すべくアジトに潜入したヒロインはとらえられるや、それッとばかりにクスリをヤラれて絶頂に次ぐ絶頂を味わうという地獄を見ることになるわけですが、とにかくページをめくるたびにヒロインが「あっ、いくっ、いくいくっ……」、またページをめくれば「ああっ、いくいく……いくいくぅっ」という台詞が連打されるサンプリングは、ブレイクビーツをふんだんに効かせたテクノミュージックを大音量で聴きながらトリップするかのようなアシッド感に満ちています。
相棒もヒロインも総じて女たちがアッサリとクスリの効果に屈してしまう”安易な”展開は、上にも述べた通り読者の嗜好によっては賛否両論あろうかと推察されるものの、個人的にアリでしょう。というのも、ヒロインが「牝」に堕ちてから、ワルたちがこのクスリによる調教・拷問についてある”事実”を告げるのですが、本作では、これによってヒロインが頼りにしていた理性の軛が崩壊するというシーンが最後に用意されています。このヒロインの絶望に最大限の効果を持たせる趣向を鑑みれば、調教が始まるやヒロインが「クスリの効果によって」早々に屈してしまうというシーンにも納得できるのではないでしょうか。もちろん、これについてもあくまでワルの虚言という可能性も十分に考えられることでもあるのですが、個人的にはヒロインのこの絶望を味わうことができただけでも大満足。
こうしたヒロインの挫折を活写する一方、「牝」へと堕ちてもなおワルの組織の殲滅を夢想して「顔を緩め」てしまうシーンの美しさ――。月明かりの下で恥辱的な恰好をさせられ、これから身売りをされるヒロインがなおも女捜査官としての矜恃を失わずにいる心情をさらりと描き出してみせた趣向の素晴らしさ――官能小説としては「美女捜査官を捕らえて監禁調教しっぱなし!」でヒロインがひたすらイキまくるという一本調子な展開とは裏腹に、女捜査官の矜恃と哀切を重ねて、悲劇的ながらも絶望の中にかすかな希望を添えた幕引きは印象に残ります。ノーマルな官能小説としてはやや物足りなく感じてしまったものの、女捜査官という特殊なキャラクターを主軸に据えた物語として見れば、なかなか愉しめた一冊でありました。