『快感! おねだりママ』や『人妻ハンター 女を堕とす禁断のテクニック』とはやや趣向の異なる一作。あらすじを簡単にまとめてしまうと、売れっ子街道から外れてくすぶっている女優、地下アイドル、グラビアアイドルの三人を山ン中の廃校に集めてイメージビデオを撮影しようとするのだが、その企画には隠された秘密があるらしく、――という話。
売れっ子になりたい美女を欺し、イメージビデオと称して実は、……みたいな話は時節柄、どうにもこんな記事を読んでしまったあとだと、読む前から気が滅入ってしまうかもしれませんが、ご安心を。結末に関していえば悲壮感はなく、むしろいつもの瀬井ワールドらしい、ある意味爽やかささえ感じさせる一冊なのでご安心を。しかしながら官能描写という点に関してだけは、後半にひとつだけ強力なネタがブチこまれているので、その一点だけは取り扱い注意、という感じでしょうか。これについては後述します。
女優にグラビアアイドル、そして地下アイドルとそれぞれに個性の異なる美女三人の造詣がまず秀逸で、そこにプロデューサから依頼を受けた男性視点で物語が展開していく構成も、実を言えば『快感! おねだりママ』や『人妻ハンター 女を堕とす禁断のテクニック』と同様、男性が美女たちに言い寄られてムフフ、……という緩やかなハーレム路線でこの点も期待通りの瀬井ワールド。
しかし上にも述べた通り、物語の視点を受け持っている主人公の男性でさえも、プロデューサがかなりヤバげな人物であることが暗示されてい、それゆえこの美女たちが相当にヒドい眼に合いそうであることからかなり不穏な空気を醸し出しているところがいつもの瀬井小説とは少しばかり異なるともいえるでしょう。もっとも美女三人をそれぞれに競わせて、その意識の奥に眠るマゾ性を引き出してみせる手法はなかなか巧みで、今回はイメージビデオの撮影という”縛り”があるゆえ、美女たちとの安易な挿入・結合シーンへと流れることはありません。畢竟、官能シーンについても、かなりの工夫と見せ方が必要となり、このあたりを作者がどう魅せているのか、という点にも注目でしょうか。それぞれのシーンについては、現実世界のイメージビデオにも則ったかなりリアリズム寄りの描写になっているのですが、そうしたリアルの映像と大きく異なるのは、官能小説ならではの美女たちの内心をじっくりと丁寧に描き出したその見せ方で、ここに視点人物の男性の期待や感じ方も添えて、シーンのひとつひとつを盛り上げていく構成が素晴らしい。
中盤に入ると、プロデューサからバトンを受け取った主人公が積極的にプレイとシーンのアイディアを開陳していくのですが、注目したいのは後半、美女が「予想もしなかった方法」によっていたぶられるシーンでしょう。もちろんこの段階ではヒドい目にあう美女当人もタイトル通りの「マゾ覚醒」はほぼ終了済みなので、シーンそのものに悲壮さはないのですが、そんなマゾ覚醒した彼女でさえも「うわぁ、気持ち悪い……」と思わず口にしてしまうそのプレイは、かなり人を選ぶというか……。確かに穿った見方をすれば、このプレイも「シーン2 穢された美術室」における「ウェット&メッシー」の変化球とみなすこともできないことはないとはいえ、いかんせんここに使われているブツが(一応ネタバレのため文字反転)ヤマビルというのはちょっと……(苦笑)。コレが美女の体をうねうねするだけでも相当にオエーッ!という感じなのですが、挙げ句にソレを女性の陰部に云々、……というのは一部の読者にとってはコーフンできるものなのか、それとも本作によって、新たな性の嗜好に目覚めるきっかけともなりえるものなのかは不明ながら、かなり読者を選ぶプレイであることは間違いないでしょう。
まあ、――たとえば、台湾の写真家・戴宏霖の「DEEP-ROOTED BAD HABITS」シリーズを見て、「いいじゃん! おれ、こういうヌルヌルしたやつ大好きッ!」なんて口笛を吹きながらコーフンできる御仁であれば、その次に「ABJECTION “SNAIL”」をご覧いただき、「これこれッ! おれっちが求めていたのはコレだよこれッ!」なんて首肯できる読者であれば、本作のこのシーンは必ずや満足できること請け合いです。実際、本作のこのシーンは「ABJECTION “SNAIL”」にかなり近いブツを使っていますので(爆)……。
物語の最後には、プロデューサの企みが明かされ、そこで美女たちの悲壮さが上にもリンクした文藝春秋の記事もかくやとばかりに描かれるかと思いきや、そうした湿っぽい話に流れることはなく、むしろそこから女性の強さ、しなやかさ、それゆえの美しさを描き出す幕引きは、『特別女子養成学院 魔の奉仕授業』にも通じる瀬井ワールド。個人的には大満足のエンディングでした。
というわけで、決して暗い話ではないので、瀬井氏の小説に軽さを求めている自分のようなファンの方も没問題、安心して手に取ることのできる一冊に仕上がっています。もっとも上に述べた通り、後半に爆発するプレイは正直、かなり読者の趣味を選ぶかと思うので、その点だけは取り扱い注意、ということで。
一応、この機会に台湾の奇才・戴宏霖の”イメージビデオ”も紹介しておきましょう。これは「DEEP-ROOTED BAD HABITS」シリーズの一本です。
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