「催眠もの」を得意とする作家の中では作品も多い作者ながら、実はその存在を知ったのはつい最近のことで、――では何か一冊ということで手に取ってみたのが本作でした。どちらかというと『三姉妹【あやつる】』の方がストレートに催眠を扱った物語らしく、そちらにした方が良かったカモと軽く後悔しながらもなかなかなに愉しめました。

物語は、ダメ社員のボクチンが、ヒョンなことから媚薬効果を持つ薬を手に入れることになり、それを使って社内の美女たちを次々と堕としていくのだが、――という話。かつて存在した伝説的サイト「大人のための催眠術」に投稿されたG.W氏の名作『僕の職場ハーレム化計画』を彷彿とさせる設定ですが、こちらは長編。催眠ではなく媚薬という直接かつ速効の効果をもたらすものが使用されているとあって、女性が朦朧状態になるまでの過程を軽くスルーしていきなり官能描写へと流れていく構成が、催眠マニアの嗜好によっては評価の分かれるところカモしれません。

堕とす女性は四人で、目次にはそれぞれ「調教願望課長」、「強制情事受付嬢」「破爪研修新入社員」「四匹奴隷美人秘書」と、ストレートに過ぎてもう少しうまい言葉が見つからなかったのかと苦笑してしまうのですが(爆)、正直に告白すると、上にも述べたように、媚薬という速効性のモチーフを用いているため、催眠から朦朧状態にいたるまでの過程が念入りに描かれてはおらず、それゆえに女性の意識が変容していくプロセスで発生する葛藤がない点が不満と言えば不満でしょうか。そんなこともあって、前半は正直物足りなかったものの、主人公がいよいよ本丸である「四匹奴隷美人秘書」を標的に据えて彼女をおとそうとする後半からの展開は素晴らしい。

お高くとまってダメ社員の主人公を見下していた美人秘書が、媚薬の効果によって、彼との行為を求めながらもしきりにそれを拒もうとする葛藤が、彼女の内面描写も含めて描かれているところがタマりません。煩悶する彼女に対して主人公が選択を与えることで、ヒロインをますます自縄自縛の状態へとおとしめていく展開が心地よく、――例えば、口淫すればセックスは勘弁してやるという選択を迫ると、ヒロインは当然ながら口淫を選ぶものの、そこで言質を取られた彼女がますます追いつめられる、――と言うことを繰り返して、ついにはヒロインの口から「愛してる」と言わせる”戦略”の妙は、前半部における媚薬の効果で即セックスという流れと見事な対をなしています。

官能小説には物語など必要ナシ、背景もドラマも無視してただただ官能シーンを延々と書いていればいいんだよ、というせっかちな御仁に後者の構成はややもどかしさを感じられるのではないかと推察されるものの、催眠にかかっていく過程を何よりも愉しみたい催眠マニアの自分としては、やはり後者のジックリと練られた展開の方が好み、と感じた次第です。

催眠ものとはやや趣を異にするものの、――媚薬ものというジャンルが官能小説に存在するのかどうかはよく判らないのですが、催眠ものの変形としては後半部の展開はかなり好み。機会があれば『三姉妹【あやつる】』を手にしてみたいと思います。