傑作。官能描写はもちろんたくさんあるんですが、個人的にはヒロインと主人公の造詣や物語の展開などから、官能小説というよりは青春小説にカテゴライズしたい一冊。
物語は、学級委員をやっている真面目君のボーイが、これまた真面目なヒロインとだんだんいい感じになっていって、最後に初体験を迎える、という話。ざっくりまとめてしまえば非常にストレートな展開なのですが、本作の魅力は、そうしたオーソドックスな構成の上に、主人公とヒロインの性に対する好奇心や不安といった内心を非常に細やかに描いてみせたそのディテールに尽きるといってもいいのではないでしょうか。またそうした主人公とヒロインの繊細な心理をほぐしつつ、最後の終着点へと導く役割として主人公の妹とヒロインの弟という二人を配した人物配置も秀逸です。
真面目な恋人二人が、勉強優先で日常生活をエンジョイしたいのだけれども――といった始まりでは、まだ二人の性に対する興味もそれほどではないのですが、ヒロインの弟の自慰現場の目撃や、主人公の妹がカレシを連れ込んでイチャイチャしている現場に居合わせたのをきっかけに、二人がお互いを性の対象として意識し始めるという物語の端緒がとてもイイ。ヒロインの弟に対する思いやりや、その優しさからもたらされる純情なエロス、さらには奔放な妹が思いのほか奥手だったことが最後に明らかにされる意外性など、この二人がかなり巧みに二人を初体験へと水面下で導いていく構成がたまりません。
また性に奥手だけど興味津々という二人が、お互いの身体という「全体」ではなく、ひたすら恥部にフォーカスして興奮してしまうという直情的にして発作的なところも、フェティッシュやSMなど様々な官能ガジェットを凝らして官能「物語」を生み出そうとする官能小説とは趣を異にしているところでありまして、このあたりも「おとなの官能小説」というよりは、まず「青春小説」としての立ち位置があり、そこから官能小説へとベクトルをふり向けた本作の独自性が感じられます。
もちろん基本は青春小説といっても、官能小説として読者を奮い立たせるシーンもたくさん盛り込まれてい、特にヒロインが弟を導く場面においては、官能を超えた姉弟愛が感じられて素晴らしい。そして感動の初体験ですが、これも青臭い描写に終始することなく、しっかりと二人の肉体の変化と感情の起伏の過程を細やかに描き出している点も好感度大。Extremeな派手さこそないものの、個人的には懐かしい青春小説でありながら現代の若者らしい青春にして性春を描いた逸品として、エグい官能小説はちょっと……なんていう初なヤングにも強くオススメしたいと思います。