タイトルは以前に取り上げた『肛虐タクシー』に似ていますが、まったくの別物。あちらはしっかりとした長編でしたが、本作はまたもやというべきか、つい先日取り上げた『姦禁バス』同様、一応の章立てはされているものの、その実は短編集という構成の一冊でした。しかしながらいずれも質感の高い陵辱もので買って損はありません。
第一章の「六本木 PM23:00」から「新宿」、「渋谷」、「丸の内」、「銀座」と地名がタイトルに記されている通り、その場所にふさわしいヒロインが鬼畜のタクシー運転手に拉致され、ただひたすら陵辱されるという物語です。六本木では、愛称エビちゃんの美人モデルが餌食となり、続く「新宿」では美人課長が、「渋谷」ではタクシーのただ乗りを画策したイマドキの姉妹が、「丸の内」では新人OLが、そして最後を飾る「銀座」では、元女優のママさんがド派手な舞台でM女へと堕ちるという、非常にバラエティに富んだ陵辱シーンがテンコモリの一冊で、堪能しました。
「六本木」では、カリスマモデルであるヒロインのエビちゃんがマネージャーの奸計によって怪しすぎる暗黒スタジオに拉致されてヤラらまくるという物語。本作の主人公であるタクシー運転手には、『肛虐タクシー』に登場するダーク・ヒーロー(?)鬼丸のようなカリスマ性こそ希薄ながら、垂れ目に馬のように剥き出しになった歯茎というゲス男らしい造詣が素晴らしい。
「六本木」は陵辱の趣向もごくごくノーマルな一編でしたが、足利ワールドがフルスロットルで夜の町を疾駆する傑作が続く「新宿」で、美人課長がこれまた社内の部下の奸計によってヒドい目に遭うという一編ながら、タクシーという機動性を活かしてヒロインをあるものたちの餌食へと突き落とす後半の展開が素晴らしい。広告代理店という、この社会の金回りを牛耳る、いわば社会の階層でいえば上の人間が底辺の男たちにヤられまくるという構図にスカッとする読者も少なくないのでは。部下のあまりにアッケラカンとした様子も、足利ワールドに登場する男の造詣としては期待通りで、収録作の中では、最後の「銀座」と並ぶお気に入りです。
で、その「銀座」なのですが、最後を飾るにふさわしく、元女優のママさんをこれまたタクシーで連れ去り、一本のSM映画を撮影してしまうという趣向です。乱歩か、はたまたというような趣向を極めた舞台装置に鬼六師匠の陵辱耽美を添えた後半の展開においては、主人公たるタクシー運転手が完全に脇役となってしまっているところはご愛嬌。とにかく撮影を同時進行させて、様々な陵辱シーンで魅せてくれる一編はまさに本作を飾るにふさわしいゴージャスさで、作者の通俗性や乱歩にも通じる懐かしの猟奇性の一面を魅せた展開は、まさに作者を代表するにふさわしい一編ということができるのではないでしょうか。傑作でしょう。
ときにアマゾンで確認した限り、作者名義の作品は全部で五冊。いずれもフランス書院からの刊行ですが、今回取り上げた『陵辱タクシー』で足利氏の作品は全読破、ということになります。ちょっと寂しいような哀しいような……。これだけ面白い作家なのに筆を折ってしまったのは、やはり当時はそれほど売れなかったのか、それとも作者自ら別分野に転身して今でもこっそり別名義で作家業を続けているのか、大変気になるところではあります。黒本の厳しいルールによって売れ行き不振ゆえに放擲されてしまったのであればあまりに惜しく、どこか別のところで作家を続けてくれていれば、と願ってやみません。官能小説家らしからぬユーモアや通俗性など、一般小説にエロを添えた作品でも十分にやっていける実力の持ち主だと思うのですけど、ブログもツイッターもやっている様子はないし、奇才・足利氏は今、いずこに。新作が出るのであれば是非とも読んでみたいものです。
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