「えっ? 倉田稼頭鬼の『隣の女子高生』って、つい先日このブログで取り上げてなかったっけ?」という疑問はごもっとも。先日取り上げた作品名は『痴漢通学 隣りの女子高生』で、本作は『隣りの女子高生 通学痴漢白書』。いうなれば「隣の女子高生」が本題なのが本作で、副題となっているのが先日の作品というわけで大変紛らわしいのですが、物語そのものも、「女子高生のヒロイン」が「主人公の近くに引っ越してきて」、「親が留守にしている間にエッチなことを迫って」「最後にはヒロインの処女をいただいてしまう」という点でもまったく同じ。
女子高生が自慰も知らぬ初な娘っ子であるところも酷似していながら、読後感はかなり異なります。どちらが好みか、と言われると大変悩んだすえに本作かナ、……と答えるでしょうか。この読後感の相違は、やはり主人公がヒロインと結ばれるその動機づけが本作の場合、最後の最期に明かされるところでありまして、ヒロインが過去の記憶を辿って、自らの隠されていた思いに気がついたあとの展開が美しい。この美しさは官能小説らしからぬ叙情的な趣を添えています。
ヒロインと早々に結ばれてしまう(陵辱であれ何でも)作品は今一つ好みではない自分でありますが、倉田氏の作品はヒロインの純粋な処女性を担保として、主人公がヒロインと結ばれるシーンを最後のクライマックスに持ってくる構成が超好み。本作ではそこへ過去の記憶によって、今まで主人公が散々行ってきた変態的行為の印象を上書きすることによって、恋愛小説へと昇華させてしまう技法が際だっています。
最後にヒロインをピュアな少女から淫蕩な女へと変貌させるか、あるいはヒロインが処女喪失をしたその後の物語を敢えて想起させず、美しく叙情に満たされた幕引きで読者の印象を留め置くか、――まったく同じモチーフと展開においても、クライマックスである処女喪失の後処理をどう魅せるかによって、まったく印象の異なる物語へと変容させてしまう作者の業師ぶりが素晴らしい。
一応、官能シーンにおいても、タイトルに「痴漢」のワードが埋め込まれているとおりに、しっかりと電車内での淫靡な描写も用意されているのですが、個人的には前半、うたた寝してしまったヒロインが淫夢をさまようなか、主人公が躊躇いつつも彼女の体をまさぐっているシーンの長回しが印象に残りました。主人公の気持ちとヒロインの感情とを交互に重ねながらますます淫らな行為へと進んでいく描写の細やかさと、二人の機微を丁寧に、ネットリと描き出す作者の筆致には無駄がなく、とにかく魅せます。そして後半ではさらにこれを上回る熱量で処女喪失のシーンを描いてみせるのですが、こうした官能小説としての見せ場においても丹念な描写で決して読者を飽きさせない本作、「痴漢」というキーワードには今一つ食指が動かない方であっても、ヒロインの初さと主人公のねちっこい追い込み方を眺めるだけでも十二分に満足できる逸品といえるのではないでしょうか。オススメです。