問題作。肉体改造をタップリと凝らしたその趣向は確かにいつもの柚木ワールドながら、今回は特に「快楽」を倒錯した「痛み」へと転化させた官能表現に、奇才ならではの凄みを見せつけられた次第です。
物語は義父の借金のカタにされたタイトル通りの兄妹が、また例によってヒドい目に遭って、――という話。このあたりの物語世界を構築するための道具立ては、様式美にまで高められた作者の真骨頂で、兄と妹がこれまた例によってワルの屋敷へと連れ込まれて厳しい”選択”を迫られるという前半の展開も期待通り。本作では、兄か妹のどちらか一人がワルの慰み者にならなければならないという選択を、主人公である兄が受けることになるわけですが、前半の見せ場ともいえるこの定番のシーンにも、作者は常に様々な趣向を凝らして見せてくれます。例えば『双子少女 孤島の姦護病棟』では、「姉妹がお互いをかばい合う」という官能小説の定型を大きく崩し、姉妹の一方が相手を憎悪するも、もう一方は相手をかばい通すという”崩し”を見せ、それを隠微な官能表現へと昇華させた技巧が痛快でしたが、本作では、「”兄(男)”を”妹(女)”として調教する」という倒錯を通して、兄の心の変容を濃密に描きながら、「快楽」を「痛み」へと、またその「痛み」を「快楽」へと転化させていった趣向が素晴らしい。
従来の柚木ワールドにも男性”性”の剥奪と女体化というモチーフは描かれていましたが、本作ではそれをメインに据えているところが新機軸ともいえるでしょうか。もっともマドンナメイトの近作には『奴隷姉弟 [女体化]マゾ調教』という傑作もあり、畢竟、読者としてはあの作品との比較をしたくなってしまうものながら、作者としても当然そのあたりは折り込み済みでしょう。本作では、苛烈を極めた肉体改造という作者ならではの個性的な飛び道具を駆使して、主人公を虐め抜いていくのですが、前半はもっぱら嗜虐者側の騙しも交えて、主人公の心理をいたぶり抜く描写が光っています。強制排泄も含めた従来からの官能描写は、いわばそうした調教を盛り上げていくための戦術として見事に機能しており、男性としての性欲に悶々としながら、女性への変容を強要されることによって主人公の自我が次第に追いつめられていく描写にはゾクゾクしてしまいました。
特に本作では、奴隷化から免れた妹を物語の舞台から早々に退場させ、調教をもっぱら主人公一人に特化した構成が興味深いのですが、もちろんこれにはシッカリと裏があります。彼を心理的にいたぶるために、憧れていた同級生の女性を巻き込んで苛烈な調教・拷問が展開される官能シーンを期待通りの激しさで魅せながら、裏切りと絶望によって主人公が奈落へと突き落とされる展開と、最後の最期に、ある邂逅シーンを用意して、倒錯の官能美を極めた後半は素晴らしいの一言。そしてエピローグの最後の一文において、さらりと綴られるおぞましき彼の未来、――この絶望的なラストは、名作『美処女 淫虐の調教部屋 』にも比肩するのではないでしょうか。
本作の官能シーンに関しては、男性読者ほど――というか、そもそも女性の読者がいるのかが謎なのですが(爆)――、主人公の受難に「快楽」よりも「痛み」を感じてしまうのではないでしょうか。特に主人公が、女性の生来的に持つ「痛み」までをも受け入れるよう外科的手術を施されたという事実にはコーフンするよりも、思わずゾーッとなってしまいました。このおぞけは官能小説というよりは、完全にホラー(爆)。今までの幼児化などは、他人事と思って柚木小説をひとつのファンタジーとして愉しめていた読者でも、さすがに本作の趣向を体で堪能するにはそれなりの覚悟が必要とされるような気がするのですが、いかがでしょう。
また女体化というジャンル(?)と、作者である柚木氏がこれからどう対峙していくのかは未知数ながら、「快楽」よりも「痛み」を極め、そこから新たな官能を見出そうとする方向性は、もしかしたら佐伯香也子女史の作風にも一脈通じるところがあるカモ、と感じた次第です。オススメながら、上に述べたような理由で男性読者にはやや取り扱い注意、ということで。
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