素晴らしい。「女体化」という柚木ワールドにもたびたび登場するモチーフがタイトルに添えられていることもあって購入したのですが大正解。確かに姉弟もので姉への責めも登場するとはいえ、紙数のほとんどは弟の方に費やされているという構成と、「彼」が「彼女」へと変容していく様を特にその内面描写も交えて繊細に描き出した展開など、「女体化」という”飛び道具”を官能小説の定石の技法によって見事な物語へと仕上げた一篇だと思います。
あらすじは、借金を苦に自殺をはかったものの、植物状態となってしまった両親の借金返済に苦しむ姉弟の前に、姉の友人という美女が現れる。二人はこの友人にいわれるまま、一年間の奴隷契約を結ばされることに、――という話。一応保険金目当てとはいえ、そもそも気立てのいい娘と真面目にアルバイトへと勤しむ息子を置いて勝手に自殺しようとする両親の自分勝手さに腹が立ってしまうのですが(爆)、さらにその自殺が失敗して二人とも植物人間状態というのも大迷惑な話。そんな姉弟の前に、いかにも悪いことを考えていそうな姉の友人が現れてから物語は一気に加速していきます。友人は美しい母親とともに、姉と弟を奴隷へと堕していくのですが、監禁生活を強いることなくボーイは普通に学校に通わされてはいるものの、ホルモン注射を受け、調教を繰り返されるうち、自身の体と意識の変化に気づいていきます。自身の肉体の変容を学校という「外部」において晒されることで、自身の心の奥に隠されていたマゾへの渇望に気づいていく、――という意識の流れが秀逸です。
柚木ワールドほど苛烈な調教はなく、むしろおとなしすぎるくらいなのですが、後半、ボーイに「姉との子供をつくるか」、それとも「手術を受けて睾丸を摘出して姉と交わるか」という過酷な二者択一を迫られるシーンが素晴らしい。もともとこのワルの友人が姉弟の二人を屋敷に連れてきた時点で、ボーイに「私はね、お姉さんには美しい女性に、そしてあなたは、男とか女とか超越した美しい存在になってほしいの」と宣言しているところからして、彼女の真実の狙いがボーイをシーメールへと変容させることであったのは、読者にも明々白々。しかしながらここでボーイに敢えて自分の意志で選択をさせるという見せ場がイイ。ここで存外にボーイはアッサリと手術を受けると答えてしまい、――と、このあたりの心理描写におけるディテールの浅さはちょっと物足りないのですが、いよいよ手術を受けてからは括弧書きも添えて、イベントのことごとに、シーメールとなった肉体によってその心もまた次第に男から女へと変容していく様を繊細に描いているところは二重丸。中でもボーイが、「前の僕と……今の僕、どっちが本当なんだろう」と自問するシーンには強く惹かれました。
そしてお約束通りに女子校へ転入させられたた後では、同級生の着替えを前にしてもコーフンできない意識の変化に落ち込んだりするのですが、それについてボーイのご主人様である姉の友人があることを告げます。その「事実」を「恐ろしい」ものと感じながらも、「胸が高鳴る」ボーイの変容には、シーメール化と平行して描かれていたことが伏線となっており、このあたりの構成もかなりうまく練られているように感じました。また最後の姉弟から姉妹の行為へと流れていく展開も読者の期待するところで、官能小説の定番を多分に意識した構成と、「女体化」という飛び道具とでもいうべき新機軸との重ね方が非常に巧みに感じられる一篇といえるのではないでしょうか。柚木ワールドのような悪魔主義的な様式美こそないものの、作者の軽妙さはかなり貴重。次作も大いに期待したいと思います。
姉弟が少々年齢高めって言う所は作品の差別化を図る上で仕方ないですが結構良い作品です……両親が自殺未遂起こす件に関しては心理状態とかでアリになるので……あらすじを見て初めてネットショップでポチりました。
こんにちはー。女体化を大々的に扱った作品としてはコレ、かなり愉しめましたね。男性側の視点から自らの快楽についてここまで丁寧に書いてあるところはかなり新鮮に感じました。このあたりをもっとミッチリと書き込んでくれると個人的にはさらにイイのですが、このあたりついては作者の次回作に期待したいと思います。