館節が炸裂する安心の一冊。収録作は、美少年との隠微な関係からワルの事故死の真相が浮かび上がる「倒錯のセーラー服」、妹ラブな兄イが倒錯愛を教えてくれたミストレス女教師との再会によって禁断の愛を成就させる「女教師のいるアトリエ」。ラブホテルで変態死を遂げた友人の秘密を知る主人公がめくるめくミストレス調教を受ける「ロリータの鞭」、変態M音が女王様の導きによって私的SMパーティーで出逢った女性の正体とは「アマゾネスの蜜」。婦人警官にイジめられるSMプレイをきっかけに再会したかつての女性の今「ヴィーナスの手錠」。インポ男から調査依頼を請け負った探偵が暴き立てる妻の秘密とは「クレオパトラの夢」の全六編。
いずれも女装に女王様に、兄妹の倒錯愛といったお馴染みのモチーフをふんだんに鏤めた逸品ばかりなのですが、本作では、複数の倒錯関係を重ねに重ねて一編の物語に仕上げてみせる館御大の技巧に注目で、冒頭を飾る「倒錯のセーラー服」では、隠微な関係に絡めてワル男の不審死にミステリっぽい謎解きを盛り込んだ趣向が面白い。本作に登場する女装男はいずれも押しに弱いキャラばかりなのですが、本編に登場する女装君はワル男に男娼めいた技巧を仕込まれた挙げ句、自分でもその性癖に目覚めてしまったという筋金入り。ワル男が死んだのを良いことに、この女装君が前から主人公のボーイを好きだったのヨン、と誘惑にかかるという展開の背後にはある事実が隠されているのですが、主人公の視点からこうした倒錯の構図を描きつつ、最後に事故死の真相を開陳する構成が秀逸です。
「女教師のいるアトリエ」と「アマゾネスの蜜」はいずれも妹に欲情してしまった変態兄イが女王様との出逢いによって秘められた願いを成就させるという趣向で、妹との秘め事を過去の追想の中で語りつつ、現在進行形で女王様との倒錯的な行為を官能小説の王道らしいタッチで描いた結構がとてもイイ。「アマゾネス」と「ヴィーナスの手錠」は”本職”の女王様と主人公たるM男のプレイがなかなかのリアルタッチで描かれているのですが、素人同士のぎこちなさを交えた描写に欲情するか、あるいは予定調和といえども洗練させた”プロ”の導きでM男が悶える描写の方がコーフンするか、――このあたりは読者の好みの分かれるところでしょう。
「クレオパトラの夢」も妻の情事の真相をプロの探偵たる主人公の視点から明らかにしていくというミステリっぽい一編ながら、期待通りに妻の秘密はミストレス絡みという展開で、最後が倒錯的なハッピーエンドで終わるところはチと意外。この幕引きに見られるように館ワールドにはアッケラカンとした明るさがあるところがかなり好み。
館御大の昔の官能小説には本作以上にミステリらしい趣向を見せる作品もありますが、これくらいの軽さが今という時代の空気を体現しているのではないかな、と言う気もします。館ワールドとしては定番中の定番たる女王様にM男に兄妹関係に女装君とその魅力がふんだんに詰まった作風ゆえ、ファンであればまず安心して手に取ることの出来る一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。