『人妻と痴漢集団』が素晴らしい傑作だったので、その前編となる本作も読んでみました。結論から言いますと、こちらも秀逸。『人妻と痴漢集団』が気に入ったのであれば、文句なしにこちらも読むべし、という傑作です。
物語のあらすじは、通学途中の電車の中で、陰湿な痴漢に絡まれたバレー部の娘っ子を助けようと、女教師が立ち上がるも、ミイラ取りがミイラになってしまって、――という話。このヒロインとなる女教師の経歴がふるっていて、元ヤンにして元AV女優。元ヤンですから、自分の教え子がヒドい目にあっていると知っては黙っていられない。痴漢現場を盗撮した連中のアジトへと乗り込んでいくのですが、それを仕切っているワルと思わぬ邂逅を果たした女教師は案の定、男たちの餌食となってしまう、――という展開は定石ながら期待通り。しかしながら、本作は『人妻と痴漢集団』とは異なり、このヒロインを絡めた痴漢シーンはナッシング。
とはいえ、本作の見所は、この女教師が堕とされたシーンから痴漢電車のシーンへと切り替わる結構で、女教師は自分がヒドい目にあいながらもどうにか教え子を助け出そうと一計を図るもその思いが伝わらず、もう一人の娘っ子もが痴漢集団の罠には嵌まってしまうシーンは手に汗握る興奮度。娘っ子が痴漢電車に乗り込んでいこうとするまさにそのシーンでは、「やめろ! やめろーッ!」と思わず心の中で叫んでしまうほどの盛りあがりを見せるのですが、このドキドキは官能小説というよりは、「悪い方向に行ってしまうと判っているのにそうなってしまう」というホラー小説か、はたまたサスペンス小説のソレ。痴漢電車の罠に娘っ子がハマってしまったあとのヒド過ぎる流れからは、まさに『人妻の痴漢集団』と同様、特急列車のごとき疾走感溢れる官能描写が冴え渡り、フルスロットルで突き進んでいきます。
後半の痴漢電車のシーンでは、娘を庇護するべき騎士が一緒に電車へ乗り込んでいるものの、彼の奮闘も空しく、――というか、現実に眼の前で起こっている出来事を受け入れられずトンデモない妄想を頭の中で繰り出しているだけのボーイには呆れるばかり。そしてなるほど、『人妻と痴漢集団』の前半で悪の手に落ちたヒロインにはこういう背景があったのかと納得した次第です。
しかし心配でならないのは、この痴漢電車が終着駅に着いたときの修羅場はどんなふうにして収拾をつけているのかというところでありまして、痴漢集団たちはその後始末をすることもなく、ヒロインたちを置き去りしてその場を立ち去ってしまうのか、それとも人目につかないようヒロインたちにも服を着せてコッソリ連れ出しているのか、――その点については本作も『人妻と痴漢集団』も言及せず、集団痴漢の結末を宙づりにしているところがなんとも落ち着かない読後感をもたらしています。また本作で悪の手に堕ちた女教師の行く末も気になるところで、この点も『人妻と痴漢集団』では触れられていなかったため、果たして今はどうしているのか。かなり魅力的なヒロイン像だったこともあって、気になって仕方がありません。またまた続編があるのであればそのあたりを是非とも描いてもらいたいなァ、……と願う次第です。
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人妻と痴漢集団 / 足利 武志