路線としては、以前に紹介した『人妻ハンター―女を堕とす禁断のテクニック』の系譜に連なる一冊ということになるでしょうか。物語のあらすじは、女性問題で以前の会社を辞めた冴えない主人公が、どうにかコネで入った学習塾でヒョンなことから欲求不満なママさんたちを満足させてあげることになって、――という話。主人公の冴えないけど女性の心と欲望を摑む技に関してはピカ一という設定はまさに『人妻ハンター』と同じわけですが、あちらがある種の特殊能力モノともいえる趣向であったのに対して、こちらはそうした女心を操り満足させる技巧を主人公の生来の性格に依拠させているところがやや異なります。とはいえ、ヤッていることはほぼ同じで(爆)、瀬井氏独特の昭和風ともいえるカジュアルで緩い官能描写を巧みに交えて物語は展開していくところが心地よい。
各章ごとに「教室でうつ伏せ」、「自宅に忍ばせる」、「公園で露出する」などシチュエーションに興趣を凝らした官能描写が本作のキモながら、もちろんそうした状況設定のみに溺れることなく、それをおのおのの女性の性格や性嗜好にうまく重ねて話を進めていくところが巧みで飽きさせません。個人的に良かったのは、スリリングさという点では群を抜く第二章の「自宅に忍ばせる」、第四章「ジムで犯されたい」、第六章「職場の事務室で」でしょうか。「自宅に忍ばせる」は、まさに主人公が間男となって、旦那がいる場所で堂堂と、しかしながらハプニングも交えて人妻とフェティッシュなプレイも交えて、緊張感溢れる官能描写で魅せてくれます。
「ジムで犯されたい」は、ジムという道具立てから様々な用具を用いて女性の快感を引き出そうとする主人公の発想はもとより、もう一人の男性をこっそりと忍ばせて3Pを主導する流れから、最後には女性の方が一枚上手というオチで締めくくる軽妙な展開が秀逸です。
第六章「職場の事務室で」は、まさに本編をしめくくるにふさわしいツンデレ女をヒロインに、明快なSMプレイを披露してみせるのですが、主人公のセックス以外はダメ男というキャラと、バリバリのキャリアウーマンというヒロインとを対照させて、彼女の欲望を引き出してみせる趣向がいい。そして瀬井ワールドでは定番ともいえる、ハートウォーミングな終盤に、今回はややメルヘンチックな舞台まで用意してしっかりとした幕引きでしめくくる終わり方もいうことなし。本作も『人妻ハンター』と同様、非常にマッタリと気楽に愉しむことができました。
小説家というのは、おしなべて一筆入魂ともいえる自信作を読者にも時間をかけてタップリと味わってもらいたい、――という気持ちがあるかとは思うのですが、昭和の時代には作者も読者も、もう少し肩の力を抜いて小説を愉しむことができたような気がする、――なんて感じているのは自分だけでしょうか。リーマンが通勤途上に読み流せる小説、みたいな立ち位置の小説を普通小説の中で探すのはなかなかに難しく、難解なミステリを読んだあとの箸休めとして官能小説を手に取っている自分にとって、本作のような瀬井氏の作風はかなり貴重。もちろん瀬井氏は『特別女子養成学院 魔の奉仕授業』のような壮大な背景をもった官能小説も描くことができる実力派ながら、本作や『人妻ハンター』のようなカジュアルな作品もまたこつこつと発表していってもらいたいなア、――と願う次第です。