傑作。ここ最近はずっと表ブログの更新に忙しく、おそらく誰も見ていないであろうこちらの方はすっかりホッタラカシにしていました。もっとも柚木氏をはじめ自分が注目している作家の新作がなかなか刊行されず、かといって表ブログの更新をすませたあとにこちらで感想を書くほどの作品に出遭うこともなく、――という感じだったのですが、ここにいたってトンデモない傑作を読了したので、久方ぶりにこちらのブログも更新することにいたしましょう(長い)。
柚木氏とともに大注目している小金井氏の新作ですが、現時点における氏の最高傑作と断言してしまってもいいのではないでしょうか。柚木ワールドにも見られる肉体改造を女体化にフォーカスして、男が女へと生まれ変わる過程を丁寧に描き出すその筆致が作者の作品最大の見所であるわけですが、今回はそうした方向性をいっそう極めた大傑作。
あらすじはというと、父親が飲酒運転の挙げ句交通事故を起こしたことをきっかけに、町を統べる金持ちのワル母娘の奸計に堕ちて女体化を強要される主人公の行く末は、……という話。偉大なるマンネリズムともいうべき、ワルの母娘の造詣も最高にクールなのですが、今回は、まずもってこの母娘の最初の犠牲者の設定が秀逸です。この人物が主人公の前に姿を見せ、その妖しい有り様に戦慄する主人公の心理描写がピカ一で、性の悦びどころか、背徳的な変態世界も知らない主人公の、不安と期待をないまぜにした感情をじっくりネッチリと描き出す作者の筆致は、前二作以上に堂に入った素晴らしさ。ここから母娘の厳しくも甘美な調教が大開陳されていくわけですが、本作が俄然盛り上がっていくのが中盤以降の展開でしょう。
性同一障害をワル娘によってデッチあげられた主人公が、クラスメートの前で女宣言させられるシーンの背徳的な面白さは最高で、そこにワル娘の周到な仕込みがあるとはいえ、本作では、むしろワル娘の奸計から離れたところで、主人公の女体化を興味津々に受け入れて陵辱連盟へと仲間入りしたクラス二番目の美女の活躍がめざましい。本作では、すべてが母娘の計画通りに進むのではなく、後半のプールにおける男子からの口虐シーンなど、予定外のハプニングを引き起こし、そこからスリリングな陵辱描写へと繋げていく趣向が素晴らしい。
合宿時における風呂場でのシーンでは、女からの責めと男からの責めをしっかりと用意して、女からは同性なんだから恥ずかしがるなと攻めよられ、男からは完全な女として扱われてマゾの隠微な焔に肉体を焦がせたりと、女体化という物語だからこその、男女双方からの責めによって色とりどりに変化を見せる主人公の内心を丁寧にすくいとり、官能的な筆致でネットリと描き出す中盤以降の展開がやはり本作の白眉でしょう。
そして冒頭の、一見すると官能描写とは縁遠いサッカー・シーンを最後の美しい恋愛成就の伏線として用意してある構成も心憎い。これ、主人公は相当ヒドい目にあっていますが、むしろハッピー・エンドといってもいいんじゃないか、と――その悪魔主義的な展開とは裏腹に、妙にハートウォームな幕引きと感じられてしまうのは自分だけでしょうか。
女体化という飛び道具でありながら、主人公の内面描写に注力した「心理小説」的な側面こそを大いに評価したい、官能小説史上の歴史的傑作といえるのではないでしょうか。柚木氏の作品群と双璧をなす肉体改造ものとして大いにオススメしたいと思います。