Kindle Unlimitedでフランス書院の黒本が読める、ということでさっそく一冊手に入れてみました。黒本から離れてもう久しいので作者の出自については不明ながら、アマゾンのレビューを読む限りでは新人作家の様子。新作が今年の九月にリリース予定で、そのタイトルが『高慢女教師三姉妹【完全屈服】』、――「高慢」女性が男に屈服するという流れが鮮明なタイトルにもフランス書院文庫らしさがイッパイに溢れていて好感度大なのですが、そうした明快さは冒頭の目次にもはっきりと表れています。それぞれの章立てのタイトルに登場人物の台詞が引用されいるのですが、ざっとそのあたりを並べてみると、
第一章 私たちは生まれついての特権階級よ お前たちみたいな下等な連中で遊ぶのは当然の権利じゃない?
第二章 お嬢さん、舐めたことくらいあるんだろ それとも金持ちはフェラも覚えないで嫁に行くのか?
第三章 そんなに娘の将来が大切だったら 奥様が代わりに私の性欲を処理して頂けませんかね?
第四章 姉さんはうまく騙せたみたいだけど お前なんて、所詮は私たちの下僕よ
第五章 嫌よ! こんなの嫌なのに 感じてなんかいないわ わたし、かんじて、ない……
第六章 ご主人様が欲しいの 私のいやらしく濡れたあそこを犯してください……
高慢な双子のお嬢様が男に乱暴され立場が逆転、最後は女の方が性奴隷となる、――みたいなやや悲壮に傾いた展開を予感させますが、実をいうとそうした憂慮と黒い期待を本作は良い意味で裏切ってくれます。主人公には妹がいて、彼女がこの高慢な双子姉妹に乱暴されてしまうのですが、主人公はその復讐として高慢姉妹をレイプする、――という流れです。姉妹がヒドい目にあうキチンとした理由が勧善懲悪的なエクスキューズとして用意されているところが巧みで、それゆえに物語は悲壮な方向へと傾いていくことがありません。主人公は、高慢令嬢姉妹の父親が社長を務める会社で働くリーマンで、社長の日常生活の雑用までをまかせられている。いうなれば使用人のような役回りを押しつけられてい、娘二人の狼藉も甘受しなければならない立場にあるのですが、復讐を果たしたあと、高慢姉妹の一人が処女喪失をきっかけとして心変わりをしていく展開は完全に男のメルヒェン(爆)。ここは、そんなことありえないべ、とリアリズム不在の作風を嗤うのではなく、大人のファンタジーとして愉しむのが吉でしょう。
この高慢姉妹の心の変化とともに、主人公との関係が逆転していく展開は目次にも明示されているとおりなのですが、ちょっと面白いなと思ったのは、主人公が悪辣に彼女を貶めるのではなく、そこには社長令嬢に対する一定の距離と敬愛が感じられるところでしょうか。そんな彼の内心を見事に表している逸話が、高慢姉妹の一人を犯して見事復讐を果たしたあと、乗馬クラブで彼女にホの字の男がフレれた腹いせに彼女を襲おうとするシーンでしょう。そこへ颯爽と現れて彼女を救い出す主人公と、そんな彼にもツンケンした態度しか示すことができないという漫画チックなシーンがイイ。
姉妹の一人をおとしたあと、さらなる標的としてもう一人を狙うという必定の展開に、義母もまた手込めにしてしまうというサービス精神溢れる構成には作者の意気込みが十分に感じられます。社長夫人でありながら陰口をたたかれ、姉妹にも見下されている彼女が心の鬱憤を爆発させて主人公の行為に溺れていく、――そしてオトされた二人が最後の一人である姉妹のもうひとりを陥れるときに使われたちょっとミステリチックな仕掛けなど、双子姉妹や義母という登場人物の相関を鑑みた官能シーンも巧みで飽きさせません。まさに黒本的、というか、官能小説の定番とエッセンスをふんだんに盛り込んだ趣向と構成は、スタンダードとしてごくごくノーマルな官能小説読者であれば愉しめること間違いありません。おすすめでしょう。