というわけで、マドンナメイトに戻って心機一転、Reader™ Storeで手に入れられる本を紹介していこうと思います。今回は偶然検索しているときに、「催」という文字がタイトルにあったのを見つけて購入した一冊で、「催眠もの」という明確なジャンルが官能小説の中にあるのかどうかはよく判っていないのですが、ガキん時に戸川昌子の『夢魔』で催眠の妖しさに目覚め、さらには生月誠大先生がテレビ番組で見せてくれた催眠施術の素晴らしさと怪しさにノックアウトされて以後、催眠のエロティシズムを体現した小説を求めて幾年月……しかしながら「これだッ!」という自分好みの一冊にはまだ出逢ってはおりません。
そんななか、タイトルの「催」の漢字に惹かれて購入した本作ですが、結論から言うと……うーん、ちょっと、というかかなり雰囲気が異なりました。アマゾンの作品紹介に掲載されているあらすじでは、
美貌の助教授・美知子の妄執に搦め捕られ、好奇心旺盛な美少女・千晶と瑠璃子のふたりは少年の妻として、羞恥の遊戯に甘い吐息を洩らす
溌剌とした美少年風美少女・千晶と早熟な身体を持つ、知的な美少女・瑠璃子。ふたりの少女と少年・祐に対し美貌の助教授・美知子が、さまざまな変態的淫戯で邪な計画を実行していく――
……そもそもこれだけでは何かなんだかまったく判りません(爆)。「好奇心旺盛な美少女・千晶と瑠璃子のふたりは少年の妻として」という文章も意味不明で、どんな物語であるかはまったくイメージ出来ないのですが、とりあえず読んでみると、主人公は野球少年で、その姿に惹かれた助教授は自らの妄想を体現するべく千晶と瑠璃子という美少女を巻き込んで変態行為に耽るのだが、――という内容紹介通りのお話でした。
そもそも冒頭に描かれた主人公のボーイと助教授の出逢いからしてかなりの唐突感があり、二人の背景が細かく描かれていないところからいきなり中学生の美少女も交えての口淫遊戯が始まるという唐突さは、シュールさを通り越して、どこかひばり的な幻想風味も備えて読者を置き去りにしたまま、あさっての方向へと突き進んでいきます。
しばらくすると、なぜ助教授は「二人の美少女を自分が見惚れた少年の”妻”とし、自分はその召使いとなる」という妄想に取り憑かれているのかという謎が明示され、助教授の上司が探偵役となってその謎を解き明かしていくという展開が用意されているのですが、本作は本格ミステリではありませんから、そのあたりは謎解きといっても、伏線といった細かい処理はナッシング。最後にはちょっと怪奇小説めいたオチでその謎は明かされるのですが、とにもかくにもそんな謎は置き去りにしたまま、二人の美少女を妻とし、助教授を召し使いとしたプレイが延々と綴られていきます。
官能描写における作者の個性としては、やたらと「セーエキ」というカタカナが少女の口から連呼されるところがあり、それにくわえて男の体臭にこだわりを見せた描写というか台詞が繰り返し語られているところも、他の官能小説には感じられない大きな特徴と言えるでしょう。少年が貞操帯をつけられて射精管理をされる中盤の展開などは、Mっ気のある男性諸氏であればほんの少しはコーフンできるかと推察されるものの、「セーエキ」の連呼はやはり、個人的な好みにはチと合いませんでした。
最後にいきなり上に挙げた探偵役が変態行為の真っ最中にドカーンと登場して、主人公にいきなりの真相を解き明かしてみせるのですが、その心の闇の所以はややホラー。もちろんそれは遠い血筋の発動と少年の身体的特徴との奇跡的な邂逅がなしえた偶然と片付けることはできるものの、少年が危惧している通り、個人的にはやはり霊的なものとして理解した方が、呪縛から解放された助教授と、もう一人の少女の変貌の所以をはっきりと説明できるような気がします。
変態プレイが大盤振る舞いの歪な官能小説と思わせておいて、「セーエキ」というカタカナ言葉に趣向を凝らしたひばり式の展開をみせる本作、かなり奇妙な官能小説の一冊として、個人的にはキワモノの読みで愉しんだ方が満足できるような気がします。あくまで取り扱い注意、ということで。