Kindle Unlimitedの読み放題ストアからまたまた黒本。いったい何冊目なんだヨ、という感じですが、Kindle Unlimitedのサービスにハマって以来、マドンナメイト全読破という最近の目標がすっかりなおざりになっているのがちょっとアレ(苦笑)。
さて、本作のタイトルからおおよその内容はイメージできるかと思うのですが、実際にその通りで、「専門学校中退の工員」のストーカー男が、結婚三年になる人妻を誘拐。自宅である市営アパートのゴミ部屋に監禁して、陵辱の限りを尽くすのだが、――という話。
摑まえてしまえばこっちのモンとばかりに男は、人妻に媚薬を飲ませてメロメロにし、さらには全身に催淫クリームを塗りたくってメチャクチャに狂わせるという悪業ぶりを発揮。とにかくページをめくってもめくっても延々と陵辱シーンが続くばかりという展開はドローンミュージックを聴いているかのような不思議な酩酊感をもたらします。
登場人物はほとんど男とヒロインたる人妻の二人だけで、密室劇ともいっていいほどに場面展開も少なく、二人だけの会話と陵辱シーンが繰り返されます。これだけでは単調な話の流れになってしまうのではと危惧されるものの、コスプレ・レイプなど様々な趣向を凝らしており、まったく飽きさせません。また、媚薬の効果などでヒロインが自らの体の変化に当惑する冒頭部から、監禁男に心が傾いていく中盤への変遷もうまく綴られてい、このあたりは官能小説の、――監禁・陵辱ものの定番とはいえ、期待通りの趣向で魅せてくれます。
社会の底辺に生きている(という設定の)男が実際に現在進行形で行っている所業は、もう完全に反社会的ゆえ、彼自身の陵辱行為もゴミ部屋の一室を王国として、限りなく反社会的な行為へ傾倒していくのかと思いきや、……ちょっと意外だったのが、物語が進むにつれて、彼の陵辱プレイがより社会との繋がりを示唆するものへと変化していくところでしょう。セーラー服を人妻に着せて陵辱、――という、一見すると男の幼稚な欲望を具現したかに見えるプレイも、その後に続くもう一つのコスプレ行為を見るにつけ、この後半に展開される一連の行為には何か深いメッセージが暗示されているのカモよ、……という思いに変わりました。
ややネタバレになるので文字反転しますが、セーラー服でのプレイは確かに男の幼稚な欲望を丸出しにした行為に描かれているものの、その後に続く人妻にウェディングドレスを着せて行う行為は、男の心の慟哭と悲痛さを浮き立たせ、本作の官能シーンでももっと印象的な仕上がりを見せています。「結婚」という社会制度と不可分な衣装であるウェディングドレスを着せてのプレイが、「専門学校中退の工員」で「築四十年を経て老朽化が進」む「市営アパート」のゴミ部屋に住むしかない男と、高層マンションの二十五階に住み商社勤務の夫を持つ人妻という社会的立場が明らかに異なる二人の対比をよりいっそう際だたせている点にまず注目。そして身分の違う二人が嗜虐者と被虐者として立場を逆転させるという官能小説では定番の構図へ、さらに「反社会的」な密室での監禁という舞台を設え、そこにまた再び「結婚」という極めて「社会的」な制度を暗示するウェイディングドレスなるアイテムを用いて「反社会的」な陵辱行為を描き出すという、――二重三重の倒錯がもたらす官能シーンは、本作の白眉のひとつといっていいでしょう。
この密室監禁は、官能小説では定番のオチを見せて幕となるのですが、この二人の将来を案じるに、これって大石圭の小説における「絶望的なハッピーエンド」と同じじゃないかナ、……と感じたのは恐らく自分だけでしょう(爆)。書き割りの中で展開される陵辱、陵辱、また陵辱の連打の背後に仄見える、社会批評を交えたメッセージを感じさせる本作、社会の「制度」にそれほどのこだわりを見せない現代人だからこそ、ここに描かれる官能に美しき様式を感じ、また官能以上の何かを見ることができるのカモ、――なんて、久しぶりに官能小説を読んでチョットだけ難しいことを考えてしまった次第です。もちろん官能小説としても、「使える」シーンはテンコモリなので、実用をまず第一として黒本をお求めの読者も満足できる逸品だと思います。オススメです。