先日感想をあげた『姦られる』が官能小説の魅力のみならず、本格ミステリ的な仕掛けを凝らした逸品だったのに気をよくして、またまた今回も館御大の一冊を手に取ってみました。収録作は、悪女に引っかかったスパンキングマニアのパパを救うべく立ち上がった娘の活躍を描いた「真白き臀に紅の薔薇」、お堅い地味女をしつこくレイプする男の正体にさりげないフーダニットとその動機にエロミス的な趣向が光る「優しく犯して」、子持ちママが見つけた再婚相手の男とセーラー服が似合う娘の隠微な三角関係を軽やかに描いた「淫ら色のセーラー服」、変態プレイ専門の闇クラブに隠された謎に意想外などんでん返しを凝らした傑作「愛しのエレクトラ」、KGBの陰謀に巻き込まれた美しき女ピアニストへの無残な拷問劇に、戸川昌子女王を彷彿とさせる変態スパイスを効かせたこれまた傑作「女スパイはむごく犯せ」、旦那の死後、変態未亡人として奔放に愉しむことを決意した女のしなやかな生き様「乱倫のバラード」の全六編。
いずれもスパンキングやレズ、近親相姦、ホモ、バイと、変態要素がテンコモリの短編集ながら、やはりそうした変態であるがゆえの人間関係が極上の官能物語を紡ぎ出すその構成が館御大の魅力でしょう。冒頭を飾る「真白き臀に紅の薔薇」は、再婚を決めたパパの相手というのがどうやら相当の悪女であるらしいことを知ってしまった実娘が、その悪巧みを阻止するべく奔走する、――という話。もちろんいたいけな娘がワルどもに捕まって、という定番のサスペンスを凝らして、そこに官能シーンを盛り込んでみせるのはお約束。前半にねっとりと描かれる悪女とパパとのスパンキングをメインとしたプレイが秀逸で、二人がお互いの性癖を披瀝するにいたるきっかけを描いたシーンなど、ハリウッド映画になっても不思議ではないくらいに洒落ています(嘘)。娘が知り得た二つの秘密のうち、最後に残しておいたひとつを背徳のエロスへと結びつける幕引きもバッチリ決まって大満足。
「優しく犯して」は『姦られる』に収録されていた「淫狼は人妻を狙う」にも通じるフーダニットに仕掛けを凝らした一編で、地味ながら結婚を決めた女が勤務先でシツコク強姦される理由と、その犯人は誰なのか、――というところで読者の興味を惹きつつ、最後に明かされたレイプ犯の正体にはなるほどねえ、と首肯しつつも、館ワールドの変態人間関係だからこそ許される真相にノーマルなミステリ読者は首を傾げつつも、ラストのこれまた背徳感溢れる官能シーンにコーフンしてしまうこと間違いなし。
「淫ら色のセーラー服」は、「真白き臀に紅の薔薇」と同様、親思いのけなげな娘の振るまいが美しい。「真白き臀に紅の薔薇」はパパ、そしてこちらはママ、と思う相手こそ異なるものの、自らの体を差し出して親の思いを遂げさせようとするエロチックな挙措が美しい。本作ではさらに娘に慕われる母親の初さがこの隠微な三角関係に極上の魅力を添えており、まず官能描写ありきではなく、登場人物たちの相関があり、そこから官能を生み出さんとする館御大の世界観が十分に感じられる逸品でしょう。
「愛しのエレクトラ」は、収録作中一番のお気に入りで、これは本格ミステリとしてもかなり評価できる一編ではないでしょうか。裏の変態クラブに所属する女性の視点から、彼女が奉仕するご主人様とのプレイを濃密に描いていくのですが、彼女がそうした変態に染まる来歴が語られたのちに明かされるこのクラブの正体には、まさかこんな仕掛けがあるとは思いもつかなかったので唖然至極。主人と奉仕する奴隷という表の関係が、読者の眼の前に明確に説明されていながらも気がつかなったもう一つの関係へと転じる仕掛けは素晴らしいの一言。傑作でしょう。
「女スパイはむごく犯せ」は、タイトルこそ「犯」されるのは「女スパイ」というふうになっていますけど、ヒドい眼にあうのは、スパイとは縁もゆかりもない一般人のピアニスト。もっとも彼女の叔父がトンデモな研究に従事していたがためKGBに眼をつけられてしまうわけですが……。彼女は演奏でソビエトへ赴いたおり、謎博士から妙なことをされてしまったらしく、KGBは彼女の体ン中に秘密のブツが隠されているに違いないと確信、彼女をひっとらえて拷問を仕掛けるのだが、――という話。拷問を受け持つのが野郎ではなく、冷酷な女王様というのが素晴らしい。最後に彼女は助け出され、件の秘密が彼女の体にどのようにして隠されていたのかが叔父の口から明かされるのですが、そのばかばかしさは完全に我らが戸川昌子女王のソレ(爆)。これでめでたしめでたし、となるかと思いきや、ここにきてようやくタイトルにもある女スパイをむごく犯すシーンへと突入し、これまた怪しげなブツで悪の女をヒドい目に合わせるのですが、このシーンもまた完全に戸川昌子女王のソレ(爆)。戸川昌子女王の『透明女』の真相を思い出してムフフ……なんて含み笑いを洩らしてしまった好事家であれば満足できる一編といえるのではないでしょうか。
「乱倫のバラード」は、変態官能シーンがなければ、女の生き様を描いた通俗小説としてもフツーに通用してしまいそうな筋運びながら、まず未亡人となった旦那がバイセクシャルで、上司に後ろから犯されてヒイヒイいっている写真が残されていたとまあ、開始早々、変態要素は大爆発。これに衝撃を受けた未亡人はシレッとした様子で、元上司にかけあって金を工面してもらうと怪しげなクラブをオープンさせ、――とここから姉弟、父娘などといった背徳の変態曼荼羅を繰り広げての官能シーンをタップリと魅せてくれる一編に仕上がっています。
いずれもかなり満足度の高い短編揃いなのですが、個人的な好みをセレクトするとすれば、やはり「愛しのエレクトラ」と「女スパイはむごく犯せ」でしょうか。この二編が読めただけでも大満足、館御大の作品はまだまだトンデモない逸品が隠されているのではないかと期待しつつ、また近いうちに別の一冊を手にとってみたいと思います。
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姦られる / 館 淳一