傑作。Reader™ Storeにあがっているマドンナメイト文庫の小説を全巻読破するッ、――などとブチあげておいて、Kindle Unlimitedのサービスが開始されるや、あっさりそちらに転んだと嗤われるのは百も承知(爆)、またまたKindle Unlimitedの検索に表示された一冊を手に取ってみました。「フランス書院」をキーワードに検索するといの一番に出てくるのが先日紹介した『高慢令嬢姉妹、堕ちる』で、その次が本作なのですが、アマゾンの高評価に違わぬ傑作・名作でありました。
個人的に、官能小説の要諦はいかにストレートな本番描写を回避して官能を高めていくかにあると信じているのですが、本作はまさにそうした評価軸からしても白眉というべき逸品でしょう。あらすじは、隣に住んでいる純情娘が痴漢に遭っているのを目撃した中年男が、今度は自分が痴漢の代わりとなって、娘っ子へソフトタッチで快楽を仕込んでいく、――というもの。ソフト調教もの、とでもいうべきサブジャンルに属する作風かと思うのですが、個人的には催眠・洗脳ものにも近しい風格の一作として最高に愉しめました。
電車内での毎朝の痴漢行為に始まり、隣に住んでいるのをいいことに、妻との性行為を見せつけて、娘っ子の好奇心と官能の昂ぶりを刺激するという主人公の戦略はもちろん、その巧妙に過ぎる言葉責めと催眠術や洗脳を彷彿とさせる誘導の技巧が素晴らしい。地の文で語られていることが真実であれば、このヒロインは自ら自慰をしたこともない純情娘なのですが、彼女が「違います。オナニーなんてしたことはありません」と繰り返し否定しようとも、主人公は執拗に「もうオナニーを覚えて、痴漢に触られたとき、同じように感じたんだろう」「じゃあ、どうしてオレたちを見ながらオナニーをしてたんだよ」「奈津美ちゃんもオナニーを見られたら恥ずかしいだろ」「ストレスが溜まるから、オナニーをしちゃうんだよな」「卑怯だよな。自分だけ隠れてオナニーをするんだ」と、言葉巧みに繰り返して、彼女が自慰行為を及んでいたことを”既成事実化”してしまう。
さらには下着の濡れや、指で愛撫を仕掛けつつ体の変化を指摘して、彼女が感じていることを認めさせながら、今度は、「オナニーは恥ずかしいことじゃない。隠さなくてもいい」「もうオレの前で嘘はやめてくれ。オナニーは悪いことじゃないんだから」とヒロインが自慰行為に感じている罪悪感を払拭せんと歪んだセラピーをほどこし、彼女を淫欲の世界へと堕していく。それでもヒロインが躊躇うと今度は、「オナニーをしてたって正直に言ってくれれば、恥ずかしいのはオレたちだけじゃない、そう思えるのに、奈津美ちゃんだけが真面目で、オレたちだけがいやらしいなんて……」と、悪いのは自分ではないそっちじゃないかと、無理筋な責任転嫁を行って、彼女の思考を混乱させる。その挙げ句、「とにかく、これは二人だけの秘密にしておこう。それがいいだろう。こんな話は誰にも知られたくないよな」と二人だけで「秘密」を共有することによって、彼女をがんじがらめにしてしまう、――と、なんだが黒い心理学の洗脳テクニックに準拠したかのごとき巧みさで、彼女を淫娘へと堕としていく展開のうまさには完全に脱帽です。
後半にいたっても、官能描写は抑制を保ったまま、決して本番行為に及ぶことはありません。ヒロインの処女喪失にはまたとない舞台を用意して、これをクライマックスに持っていく構成の旨さも素晴らしければ、この一番のシーン彼女の独白もタップリ添えながら、恥じらいをかなぐりすてて淫蕩娘へと変貌していくさまをじっくり、ネットリと活写した最終章「調教! 処女から淫娘へ」によって、本作はソフト調教ものにして催眠・洗脳の趣向までを備えた名作になったといえるでしょう。エピローグ風に語られる二人の関係のその後と、新たな予感を孕んだ幕引きなど、巧みな心理描写と濃密な官能描写を持ち合わせた逸品たる本作、黒本マニアはもちろんのこと、ちょっとハードなものは、……という初なビギナーでも十分に愉しめるのではないでしょうか。オススメです。