『マゾ覚醒! 悪魔の凌辱撮影』を読了してから、「そういえば似たような筋運びの話があったよなァ……」と思い出しての再読。同じマドンナメイト文庫からのリリースですが、『マゾ覚醒』がタイトルには「悪魔の」とありながらも瀬井氏らしい、爽やかな幕引きを添えていたのに比較すると、こちらは往年の綺羅光、――たとえば『美人キャスター・隷獣』などを思わせる悲壮な結末が待ち構えてい、個人的にはあまり好きな作品ではない、――というのはナイショです(爆)。
しかしながら、過去作となる本作と新作『マゾ覚醒』とを較べてみると、作者の進化と変化を垣間見ることができたのもまた事実。あらすじはごくごくシンプルで、歳をとって落ち目の三度笠のアイドルが起死回生を狙って地元へと戻り、先輩女性とイメージビデオの作成を企画するも、カバ男のストーカーが二人を付け狙ってい、――という話。
『マゾ覚醒』では、主人公の視点からビデオ撮影の背後にはプロデューサの陰謀があるらしいことが仄めかされているのですが、本作でもそうした趣向は活かされてい、ヒロインと先輩女性の過去の逸話を添えて、今回のビデオ撮影には彼女なりの歪んだ目的があることが描かれています。『マゾ覚醒』では、主人公の思い込みによって暗い結末を予感しながら進んでいた物語が、最後には女のしなやかさを描いた爽快な幕引きへと転じる構成が素晴らしかったのですが、本作ではそうした反転もなく、ダークなラストで締めくくられます。上に挙げた綺羅光の『美人キャスター・隷獣』などがその典型ですが、ただひたすらにヒロインが堕ちていき、物語が終わったあともその奈落が続いていくことを予感させる、――そうした往年の陵辱小説を彷彿とさせるラストは、官能小説においてソフト路線を所望する読者が多い今においては好みが分かれるような気がします。
もっともヒロインの視点から本作を眺めているとたしかに悲壮ではあるのですが、ストーカーのカバ男の目論見が先輩女性の暗い情念によって変化していき、結局は彼女に取り込まれていくさまを、三者三様の内的独白も交えて描き出した構成は心理小説としてもなかなかで、特に後半、自分のアイドルだった彼女が淫蕩な女へと堕ちていくさまに戸惑い、それでも快楽のため先輩女性の言う通りにしてしまうシーンは、ちょっとゾクっときました。
またこれはあくまで個人的な好みではありますが、目次において最終章となる第五章のタイトルを「処女膜を突いてください」とすることで、そこまではいっさい本番行為を行わず官能を盛り上げていくことを宣言している作者の試みに痺れた次第(爆)。様々な道具立てによって三人の女性が変化していくさまを活写した『マゾ覚醒』の方が見所も多く、それぞれの官能シーンも優れていることは明らかなのですが、こうした官能の過程にストイックな縛りを添えた展開には、『マゾ覚醒』の萌芽を見ることもできるような気もします。ビデオ撮影にかこつけて云々、――という展開にサブジャンルめいた名称があるのかどうかは判らないのですが、この系統の瀬井氏の作品であれば、今は『マゾ覚醒』一択ながら、あの作品の源流を辿ってみたいという好事家には本作(とおそらく『悦楽園』も)を手に取ってみるというのも十分にアリといえるのではないでしょうか。
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マゾ覚醒! 悪魔の凌辱撮影 / 瀬井 隆