作者の作品は既に『僕が先生の奥さんを奴隷にした三週間』を読了済みですが、個人的にはこちらの方が遙かに好み。なんというか、あちらがヒロインや魔少年のリアルな実生活に根ざした官能世界を目指していたのに比較すると、こちらはどこか浮き世離れした雰囲気が好印象で、ただの初な少年が魔少年へと変貌していく過程と理由付けを、彼の内的心理も交えて丁寧に書き出している点も素晴らしい。傑作でしょう。
物語は、家具の輸入販売をしている親父の再婚相手である義母をイヤらしい目で見つめていたボーイが、叔母の奸計によって魔少年へと覚醒。義母を奴隷へと堕とし、その魔手はやがて叔母にも向けられて、――という話。
テニスコートを舞台に淫靡な誘惑によって初なボーイにあることないことを吹き込んで、義母への憎悪と欲情をかきたてる義母の邪悪ぶりがまず二重丸で、このシーンだけでもかなりイケているのですが、こうした肉体を交えての誘惑よりも、個人的には作り話を吹き込んで、ボーイに義母への憎悪を植えつける心理展開にゾクゾクしてしまいました。父親をかどわかし、病弱だった実母を棄てるよう誘惑した悪女、――そんなふうに義母の印象を上書きされてしまったボーイは目論見通りに魔少年へと覚醒し、叔母のリードによって義母を奴隷に堕としていく。その行為としての陰惨さはもとより、まったく身に覚えのない理不尽な仕打ちによって、血が繋がっていないとはいえ息子と交わることになってしまったヒロインのおそれと屈辱はいかばかりか、――このあたりの内的独白もしっかりと括弧書きで挿入してあり、魔少年の歪んだ思いと理不尽を受け入れる義母との対比が恐ろしくも美しい。
そして義母を奴隷に堕とした魔少年が肛虐も含めた仕打ちを繰り返すなか、自らの奸計を成功させた叔母の再訪が物語をまた新たな段階へと進めていきます。魔少年と再会した叔母が彼の変貌ぶりに一瞬たじろぐシーンの伏線がうまく、これが後半の邪悪な展開へと繋がっていくのですが、このあたりの構成もまた巧み。正直、叔母への仕打ちは因果応報と言えなくもないのですが、見事真の魔物へと覚醒した少年の邪悪な計画を受けいれざるをえない女たちの失望と、相反する黒い官能を予感させる後半の流れなど、まさに「魔少年」ものの傑作と呼ぶに相応しい余韻を残したエンディングもいうことなし。
作者の作風は、本作のようにどこか浮き世離れした物語世界の方が自分の好みに合うようです。作者の作品すべてがこうした魔少年ものなのかどうかは不明ながら、倉田稼頭鬼と同様、まだまだKindle Unlimitedで読める作品があるようなので、ちょっと追いかけてみたいと思います。
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僕が先生の奥さんを奴隷にした三週間 / 麻実 克人