傑作。疾走する官能小説家、足利武志の一冊。『人妻と痴漢集団』と『痴漢集団「狼」』が思いのほか傑作だったので、こちらも試してみました。タイトルは「肛虐」に「タクシー」ですが、実を言えば両方とも物語の本筋には絡んでいないような……(爆)。あらすじは、女子大生の間で都市伝説的な噂となっているタクシーに、政治家を父に持つ娘が誘拐され、哀れコマ師たちの餌食となってしまう。そして彼女の妹もまた件の誘拐タクシーに眼をつけられ、……という話。
一応、上のあらすしでさらっと述べた通り、誘拐タクシーは登場するものの、誘拐行為にタクシーが使われるというだけで、痴漢集団が延々と電車の中で淫執なプレイを繰り返すように、タクシー運転手が獲物を探しては次々と車内に監禁してアレもしてコレもして、……というようなお話しではありません。タクシーでアジトへと運び込まれた女子大生にはさっそく「セックス奴隷になるための肉体調教」が行われることになるのですが、ここで登場する幽鬼のようなコマ師の怪人ぶりがまず凄い。百舌鳥という名のその男は、「ガリガリに痩せたスキンヘッド」で「落ちくぼんで不気味な光を放つ眼」もった怪人にして「セックス依存症の患者」。彼がそんな境遇に堕ちるまでのいきさつを、鬼丸というこのコマ師集団の首領が娘に語って聞かせるのですが、この口上がまたふるっていて、
「ガキの頃、鉄砲玉やらされてよ。若頭の首を獲ったはいいが、自首するのが馬鹿らしくなって、背中にでっけい刺し傷しょったまま逃げ隠れしていたんだな。それで、顔なじみの台湾マフィアにかくまわれて、鎮痛剤代わりに変な薬をさんざんやったらしいぜ。アンフェタミンだかコーチゾンだか。副作用で今じゃ重度のセックス依存症。まともじゃねえから変に逆らわない方が身のためだぜ」
そんな怪人が彼女を犯らせるために「一ヶ月女ぬきで暮らしていた」というからただごとではない。首領が鉄扉を閉ざし、暗い部屋へ二人きりにされると、セックス依存症の怪人が「オンナ、オンナ……マ×コ……食いたい」と呻くような声をあげて近づいてくるなり、足首からふくらはぎにかけてをしきりになめ回しながら「うめえ、うめえよ。沙紀のアンヨ、めちゃめちゃうめえ」なんていいながらニタリニタリと笑う様は、官能小説というよりは完全にホラー。ちょっと乱歩の怪奇小説の登場人物めくこの百舌鳥のキャラだけでもお腹いっぱいなのですが、この幽鬼のような男に犯される美女というゾクゾクする構図へ、誘拐ものとしてサスペンスも交えながら、背後で隠微に進行する策謀を次第に明かしていく構成もまた一流の娯楽小説のような興趣に満ちています。
さらにこの姉に続いて妹もタクシーに誘拐され、アジトへと監禁されるのですが、その前にじっくりと描かれるタクシーの中での非情な陵辱行為も見所が多い。彼女が憧れていた人物がワルに駆け引きを持ち出され、この陵辱行為へ無理矢理参加させられる流れの中で、この人物の鬱屈した心情を描いてこの後の展開の伏線とするなど、『人妻と痴漢集団』に比較すると、考え抜かれた結構と伏線が秀逸です。
中盤からは、勝ち気な女捜査官というコマ師の宿敵を登場させ、さらにはこの女との格闘シーンから宿敵ならではの最高の奴隷堕ちシーンを見せてくれるというサービスぶり。官能小説の定石をしっかりとおさえながらも、コマ師集団の首領たる鬼丸のカリスマ溢れる悪漢像など、サスペンス、ピカレスク、さらには乱歩風の怪奇小説趣味までをも贅沢に盛り込んだ本作は、おとなの男のための娯楽小説と呼ぶべきでしょう。それを『人妻と痴漢集団』のスピード感で活写した本作は、まさに作者の代表作というべき一冊に仕上がっています。『人妻と痴漢集団』の圧倒的な疾走感を満喫できた読者であれば本作もまた大いに愉しむことができること請け合いです。超オススメ。
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