偏愛。タイトル通りに肉体改造や戸籍改竄によって少女の肉体と精神を雌奴隷へとおとしめていく過程を、熱量溢れる筆致で描き出した『改造美少女』と、孤島という閉鎖空間に悪魔的な王国を構築した人工性際だつ力作『双子少女 孤島の姦護病棟』にはさまれてやや地味な印象を与えてしまう本作ですが、個人的には柚木ワールドの一冊としてはかなり好きな作品です。
物語は、母親の経営する牧場がワルに買い取られてしまい、例によって母娘が毒牙にかかって、――という話。肉体改造をはじめとする苛烈な拷問がやや影を潜めた作風は、上にも述べたとおり地味にさえ感じられるものの、これにはしっかりとした理由があり、その背景が描かれる最終章となる第七章「通勤列車での排便失禁」には、柚木小説が官能小説の枠にとどまらない、いわばサドにも比肩する思弁小説にも近しい作品世界内包することを明かす名シーンが用意されています。
本作でも、『改造美少女』から継承された母娘を交えての調教というモチーフが存分に活かされているのですが、それ以上に馬主や牧場といった馬と奴隷とを重ねた詩的ともいえる趣向が際だっているように感じられます。柚木ワールドならではの激烈を極めた調教はもちろんシッカリと描かれてはいるのですが、肉体改造を軸に据えた人工的な激しさよりも、北海道という北国を舞台に据えた本作では、叙情的な風格が際だっているところに注目でしょう。
本作のヒロイン椿季はかなりのお気に入りで、その類い希な容姿以上に、激しい調教を耐え抜き、最後には主人を心の底から敬愛するほどに美しく、そして”自然に”成長した姿に心惹かれます。もちろん母娘ともに性隷へと堕ちた姿は悲惨そのものでしかないのですが、その奈落を美しく描き出す柚木氏の筆致はもちろん本作でも健在、――いや、”絶望的なハッピーエンド”ともいうべき、おぞましき至福に溺れる家族の末路を描きだした『双子少女 孤島の姦護病棟』のラスト・シーンもかなりお気に入りではあるのですが、ヒロイン椿季の内的独白を切々と明かしながら、自らの姿を天駆ける馬と重ねて主人への愛を告白する彼女の美しさを描いた本作の終幕は、柚木小説の中では一番のお気に入りだったりします。
そしてそれ以上に、――といいますか、様々なバリエーションを交えた拷問調教以上に屈指の名シーンともいえるのが、上にも述べた第七章「通勤列車での排便失禁」で、二人の主人が双方の奴隷を従えながら、おのれの美意識を戦わせるところでしょう。一方が奴隷に肉体改造をほどこすことをすすめると、本作の主人である神辺はそれをあっさと断り、「お前とは美に対する意識がちがう」という。ここから少女を花にたとえて神辺の主張が滔々と語られていくのですが、これによって柚木ワールドには、前二作に描かれた肉体改造を極めた調教にとどまらない、多様な美意識と価値観が存在し、またそれゆえに奴隷もまた数多の花のごとく多様な色とかたちがあることが明かされているわけですが、こうした多様性は、『双子少女 孤島の姦護病棟』に構築された人工の王国で妖しき花を咲かせ、男たちの欲望を次々と呑み込んでいく――。
そうした流れを振り返ってみると、本作に横溢する自然主義と叙情を極めた美しき世界は、『双子少女 孤島の姦護病棟』の人工性と対照してよりいっそうその輝きを増すといえるかもしれません。そして本作の叙情と『双子少女 孤島の姦護病棟』における人工性が見事な重なりを見せて壮絶な母娘の宿業へと昇華された傑作が『美処女 淫虐の調教部屋』である、――というのが自分の見立てであります。
柚木小説もまた佐伯ワールドと同様、いずれも傑作ばかりというレベルの高さではありますが、本作の詩的な美しさはかなり貴重。そしてまた奴隷と主人二人の情愛の繋がりを美しきラスト・シーンへと結実させた本作は、悪魔主義とはまた違った柚木小説の一面を見せてくれる一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。
各書を好意的に解説してくださり、作家冥利につきます。
ありがとうございます。
『聖少女』は私も好きな作品です。
最初はヒロインの名前を天満【ルビ:てんま】にしようと思っておりました。実際、それで書いておりましたが、椿季という名前が綺麗だなって途中で気が変わったので、椿季になりました。
天満で書いていた頃からおてんば、天馬という文字遊びを考えておりました。
水槽のシーンで球根が毒である曼珠沙華を落としたとき、花言葉を使い、椿の花言葉を調べて天啓を受けたような思いでした。
『聖少女』のラストは本当に思い入れがあります。
あと、人体改造を自分の作品で否定しておきたかったんですよ。
どうせ、否定するなら椿季はオムツじゃなくてもよかったのではないかと今更ながら思います。
柚木先生、コメントありがとうございます。
(まさか裏でこっそりやっているブログに、作者本人からコメントがあるとは(^^;)……)
『聖少女』のラストシーンは屈指の美しさで、自分も大好きです。
>> 人体改造を自分の作品で否定しておきたかったんですよ。
だとすると『聖少女』で人格改造を否定した物語を書いたからこそ、(その欲求不満で?(爆))絢爛たる異世界を描いた傑作『双子少女』が生まれたのかな、と考えたり……。新作の『JC奴隷×禁虐病棟』は未読なのですが、こちらも愉しみにしております。先生には、どうか自分のような格別の官能小説ファンでもない偏食家もまた愉しめる異色作を書き続けてくださることを願ってやみません。
この作品にはかなりの思い入れがあります。舞台が新ひだか町あたり、昔の静内町だと思います。下着が盗まれたり露出狂の母親、椿季の運命が徐々に変わっていくところから柚木ワールドの世界が広がって行きます。柚木作品全て読破してますが、私はこの作品がナンバー1だと思います。