今月に入ってオープンした官能小説誌「悦」が主催する電子書籍サイトAubeBooks.com。そこで購入した一冊となります。前の記事にも書いた通り、とりあえずご祝儀で全冊購入したみたのですが、作品一覧のページでまず最初に並んでいるのが本作です。お初の作家なのですが、サイトが掲げるExtreme Loveにふさわしい作品で、堪能しました。
本作では「母乳プレイ」という”縛り”を設けながらもそれぞれのヒロインの情感と官能、そして哀切を鮮やかに描き出した趣向が素晴らしい。まずもって「母乳プレイ」という点がかなりExtremeなのですが、この特殊なプレイに「ぐっとくる」かどうかは読者を選ぶところながら、個人的には官能小説としての魅力以上に、花房観音や岡部えつなど、個人的にはかなりお気に入りの女流作家の描き出す作品世界にも通じる噎ぶような女、おんな、オンナワールドの大開陳にお腹イッパイ。
収録作は、社宅にいたかつての美少年と再会した子持ち女が、淫らな母性を発揮して母乳プレイの極上セラピーをボーイに施す「甘いおっぱい」、母乳をあげているところをガン見している夫の会社の新人クン。彼に欲情したママさんが母乳プレイの果てに知る彼の本性「白い蜜の誘惑」、人事部長に母乳プレイを懇願された人妻が脅迫半分でその要求を受け入れるのだが「ママは乳房を含ませて」、元コンパニオンのママさんが事務所の取締役に再会して母乳プレイに挑む哀切「母乳コンパニオン」、デキ婚ママがネットで知り合ったおっぱい星人との母乳プレイを通じて母性を感受する「母乳とろり」、母乳あげたい願望に思い悩むママさんがテレクラ遊びから人生の緩い転落を経験する「母乳ぴゅぴゅ」、ブルセラならぬ母乳売りで小金を稼いでいるママさんが上客との邂逅を通じて母性を発揮する「売乳聖母」、シングルマザーが新人ホストとの母乳プレイを通じて、愛する人探しの哀しい終着駅へと致る「白い雨」。
個人的には後半に収録された作品が好みでしょうか。女の哀切が活写された物語の数々は官能小説らしい描写こそしっかりと凝らされているものの、それ以上に母乳が出る女ならではの哀切が描かれている点が秀逸です。母乳プレイというかなり特殊にしてExtremeな行為を、女の側から見た視点と、男の欲望とに対照させた構成が見事で、特に「母乳とろり」では、子供を置いてきて男と交わるヒロインが罪悪感を覚えつつも、「このお兄ちゃんも、赤ちゃんなのよ。大きな赤ちゃんなの。おっぱいを欲しがっているのよ……」と、眼の前にいない子供と自身に言い聞かせるように呟く台詞が哀しさを誘います。そしてまたその時に感じた官能をさらりと「あ、これが、母性、なのかな」と綴ってみせる見事さ――。
本作に登場するヒロインはいずれも、子持ちの母親という子供を「守る」べき存在でありながらもシングルマザーやデキ婚という境遇から心に哀しさを抱えている女性であったり、キチンとした夫のいる普通の生活を送りながらも官能の炎を自らの身体に抱えている女性なのですが、そうした様々な境遇にありながらも、「母乳プレイ」という縛りで物語の風格を統一しつつも、さまざまな色使いで彼女たちの女性と母性の狭間で揺れる心情を繊細に描き出した逸品揃い。一般の官能小説からは大きく逸脱した一作ながら、「母乳プレイ」の描写におけるリアルさ(母乳の味や彼女たちの日常的な戸惑い)は、ある特殊の性癖の御仁には十分に魅力的に映るであろうし、そうした個性に官能を覚えなくとも、女性の内心を細やかに描き出し、女性と母性の重なりという精妙な女の一面を活写した一般小説としてもかなり愉しめるのではないでしょうか。オススメです。