奇才・柚木郁人の恐るべき処女作。すでにこの一冊にして作者のやりたいことはすべてやり尽くしてしまったのでは、というほどに行間から立ちのぼる熱量が凄まじい。どういう経緯で本作を手に取ったのか、今ではマッタク記憶にないのですが(爆)、この本を初めて読んだ時の衝撃は今でもありありと思い出すことができます。マドンナメイト文庫からのリリースゆえ、世間では官能小説にカテゴライズされる本作ですが、陵辱、調教といった定石におさまることなく、外科的手術による肉体改造や、戸籍改竄による人格剥奪など、悪魔主義の横溢したモチーフの連打は、陵辱・調教のインフレーションといった官能小説が陥りがちな隘路にはまることなく、むしろその趣向は、海野十三や戸川昌子にも通じるアシッド感に満ちみちています。
あらすじは、借金返済のために、製薬会社の社長と奴隷契約を結んだ美少女がトンデモない調教を受けることになるのだが、――という話。こうしてバッサリと短くまとめてしまうと、あとは官能小説の定石通りに陵辱の手法や描写によって話を盛り上げていくのが定石ながら、本作では上にも述べた通り、地の文にミッシリと描かれた陵辱描写のディテールのみならず、肉体改造といったおぞましい方法と、戸籍の改竄をはじめとする様々なやり方によって社会的存在を改変してしまうという精神的な陵辱を重ねながら、可憐なヒロインの心の惑いとその変化を繊細に描き出していく構成が素晴らしい。
正直、一般人が普通の官能小説かと思って手を出すと大火傷をするという一冊ながら、個人的にはむしろサドの『ジュスチーヌまたは美徳の不幸』のようにひたすら煉獄への階段を下り続ける悪夢のごとき展開と、その果てに少女を待ちうける狂気と解脱は、「実用」を求める官能小説というよりは、戸川昌子の系譜に連なる変態小説の趣が強く感じらるような気がするのですが、いかがでしょう。
そしてついに幼児へと改造された少女が自らの行く末を悟って思考を退行させていくラストシーンの描写の美しさと恐ろしさ――。こうした作者ならでは悪魔的な美学は、やがて傑作『美処女 淫虐の調教部屋』へと結実するのですが、その萌芽がすでにはっきりと記されている本作は、処女作にしてまさに奇才、異才と呼ぶにふさわしい作者の代表作の一冊といえるのではないでしょうか。個人的にはオススメ、ではあるのですが、フツーの官能小説の所望される方には厳重取扱注意、ということで。