いわゆるミスレス小説。完全に自分の趣味とはかけ離れた世界なのですが、主人公が自らの歪んだ性癖を甘受し、堂々とその道を極めようとする成長譚としてかなり愉しめました。
物語は、親の借金を返済するためにナイショでコッソリ女王様をやっていた姉に導かれるまま、M男道を追求せんと変態道を突き進むボクちんの行く末は、――という話。そもそも姉を性の対象としてコーフンしている主人公のボクちんの心情が、一人っ子の自分にはマッタク理解できないもの(苦笑)、彼が姉の下着に興奮したりといった青臭い青春のエピソードがなんとも微笑ましく、主人公ののアッケラカンとした性格ともあいまってどこかほのぼのとした叙情を備えている展開が心地よい。
M男の性癖が同居している姉にバレてしまい、彼女にいわれるまま、女王様から課される試練を次々と乗り越えていこうとする主人公が、シーメールして生まれ変わっていく過程は紙数もあってやや駆け足で語られるものの、セーラー服を着せられて挑むことになる最終テストの「闘い」は相当にスリリング。同じ奴隷候補と肩を並べ、鞭はもとより多くの仕打ちに堪え続ける主人公は、決して相手をうちまかすかのごとき策略に溺れる事はありません。そして、あくまでシーメールという特異な存在だけが持ち得る、――内面的な優しさがこの関門をくぐり抜ける最終条件であったことが明かされる後半の軽妙などんでん返しから一転、姉が主人公に下す最後の命令の酷薄さは、果たしてM男の願望成就とみなすべきなのか、それとも……と頭を抱えてしまう幕引きが、そうした性癖を持たない読者には不思議な浮遊感をもたらします。
主人公のアッケラカンとした性格と協奏するかのように、プロローグの前とエピローグの後に挿入されている作者の「フェチなエッセイ」がめっぽう面白いのところにも注目でしょうか。このエッセイの中では、「シーメールが好きなのではなく」、「美少年が好きで」あり、――というところから、いきなり乱歩の『少年探偵団』へと話が飛躍する唐突な展開がイイ(爆)。小林少年がやたらと敵方に捕まって縛り上げられるところにコーフンした、という作者か、乱歩を「まさに変態百貨店と呼ぶにふさわしい人物だった」と回想するシーンには、本格ミステリファンとしては苦笑至極なのですが、ここからさらにシーメールへと通じる女装趣味へと話題を転じて、なぜ美少年を女装させるとコーフンするのかについて、その倒錯した心理を巧みに分析してみせる作者の技巧に頷くことりしきり、「美少年というのは男の子にとって、たいていいじめられる対象である」という考えから、美しいものはいじめられるという、官能小説の要諦にも通じる倒錯の解答が導き出され、そこから「女神の双頭具」というプロローグへと流れていく構成が心憎い。
シーメールやミストレスに興味がなくても、作者の軽妙なエッセイから被虐・嗜虐心理の真相を覗くことができる作者の「フェチなエッセイ」だけでも読む価値アリ、といえるのではないでしょうか。オススメです。