少し前に取り上げた『絶対調教 彼女の母、彼女の姉、担任の先生まで』と同様、自分の中では「魔少年もの」としているジャンルの一冊。あちらはアメリカ在住経験もあったりしてスマートな趣のある少年が主人公でしたが、こちらは親も学校に寄付をしてたり、裏ではヤバげた商売もしてそうな生粋のワル。もっともワルといいながら決して不良のようなチンピラではなく、一見すると普通の少年に見えながら邪悪な心を持っているという造詣が何とも恐ろしい。
物語は、タイトル通りに「先生の奥さんを奴隷にし」てしまう話なのですが、無理矢理に監禁して奴隷に堕とすような野暮なことはいたしません。まずは妹に狙いを定めて後戻りができないような弱味を握り、そのあとジックリ奥さんを堕としていくという周到な計画を立案実行するだけの冷静さをこの魔少年は持ち合わせています。さらにその最終的に行き着く先が、魔少年の子の妊娠という最悪の結末に致るであろうことを予感させながらも、家庭崩壊にいたらずぎりぎりのところで、最悪の均衡を保ちながらこの煉獄が続くであろう事を暗示する幕引きが恐ろしい。
例えばその後味の悪さは、綺羅光の『美姉妹・恥辱の履歴書』あたりをイメージしてもらえばよろしいかと。ヒロインが自らのあずかり知らぬところで幸せな家庭の崩れていく予徴を感じながら、それをどうにかして食い止めようともがけばもがくほど、魔少年の罠に嵌まっていってしまうという展開の薄気味悪さ、――正直、この魔少年の邪悪ぶりは官能小説的描写がなければ完全にホラーといえるのではないでしょうか。それも尼崎のアレとかのリアルな事件を想起させる不気味さで、個人的にはたとい官能描写が秀逸でもかなり精神的にキツかったことは正直に告白しておくべでしょう。
何よりも、調教行為という鞭と「愛してる」「好き」だという言葉の飴とを使い分けながら、美女二人を次々と後戻りのできない状況へと堕としていく魔少年の巧みさが光ってい、そうした周到な計画の中には妊娠という、まさに女性にとっては不可逆的な痛撃ともいえる行為が含まれているところがおぞけを誘います。美女たちも魔少年の子供を孕んでしまってはもうどうしようもないことになってしまうのは判りきっていますから、それをどうにかして阻止しようと考えを巡らせるのですが、魔少年はそんな彼女たちの考えなどすっかりお見通しで、先廻りするかのようにトリックを弄してついには彼女たちを妊娠させてしまう、――もっとも妊娠してしまったということは事実として明確に記されてはいないものの、ヒロインたちの女の直感、確信として心理描写に添えてそのことが書かれているため、読者としてはそれは事実として受け止めるしかないでしょう。
とにかく旦那も奈落に堕ち、姉妹も奴隷に堕とされ、と登場人物がこれすべて煉獄へ堕とされるという悲壮な結末にはカタルシスも何もありません。ただただ暗く、魔少年の不気味さが際だった後味の悪い読後感を残すのみという一冊なのですが、その一方で、この後味の悪さが同時に官能小説ならではの背徳的な愉悦をも含んだものであることはここに指摘しておくべきでしょう。いうなれば好き者には堪らない、という逸品でもあるわけです。
魔少年ものとしてはまさに邪悪さを極めた一冊でもあり、「そうした」作風が好きな好事家であれば非常に満足できるのではないでしょうか。ただ、個人的な好みにとしてちょっとアレ、……だったので、自分のようなアマちゃんの官能小説読みの方には取扱注意、ということで。