Kindle Unlimitedの黒本四冊目。前回の『熟女家政婦と僕【青い初体験】』が、官能小説ならではのポエジーを炸裂させた怪作だったのに比較すると、本作はまさに王道をいく陵辱もの。あらすじはというと、女子校の図書館司書としてやってきた淫鬼男が、バレー部に所属するブルマー娘に一目惚れ。盗撮を試みるも彼女に見つかってしまった男は、――という話。盗撮をネタに娘を脅迫して、次々と欲望をエスカレートさせていく展開は、今読むと反リアリズム感ありありなのですが、これもまた黒本ならではのファンタジーだと考えれば没問題。本作ではとにかく主人公の淫鬼が希代のフェチ男で、ブルマーへの執着ぶりが半端ないところに注目でしょうか。主人公の欲望によりはっきりとした輪郭を与えんがため、とくに臭いに焦点を合わせたフェチ魂溢れるディテールの描写が秀逸です。
姉妹ということで、バレー部に所属するショートカット美女の妹に、ヌーボーロマンも読んでいるオマセな文学少女の姉という対称性にくわえて、妹には性に奥手な個性を配し、一方の姉は文学好きの淑やかな女性に見せながらその実は淫乱カモ、――という明快な個性を添えて物語の展開に絡めていくところは、まさに官能小説の王道路線。盗撮したビデオをネタに脅迫を繰り返し、妹への要求を次々とつり上げていった挙げ句、ちょうど物語の中盤において貫通式を見せる構成はロジカルで、半分をちょうど過ぎたところから、今度は姉を射程に据えた展開へと移行していくのですが、妹を庇うために今度は姉が犠牲になってしまう、――というこれまた王道中の王道の流れを見せながらも、この姉はあまりに無防備過ぎないかい? と頭に疑問符が湧いてきてしまうのもまた事実。しかし、姉は妹に比較して実は淫蕩という個性によってそこにエクスキューズを添えているところが巧みです。
官能描写の趣向においては、姉にブルマーを穿かせて官能小説を読ませるシーンがピカ一でしょうか。もちろんそこで姉が読むことになる小説は「黒いカバーのポルノ小説」で、作中のヒロインを自分の名前に変えさせて朗読をさせるという要求がイイ。文章を口にしているうちに官能の昂ぶりが抑えられず、ついには男の軍門に降ってしまうというこれまた王道の展開で見せてくれます。
今であればこの主人公の淫鬼がヒドい目にあう勧善懲悪があってしかるべきでは、という感じがしないでもないのですが、最後は王道のエピローグでしめくくります。とにかく奇をてらった要素を徹底排除した一冊ながら、主人公が口にする台詞がなかなかに面白い。「男っていうのはね、勃起してる時は凶暴だが、出したら急に優しくなる生き物なのさ」と嘯く台詞は、ハードボイルド小説の一節にあっても不思議ではないし(大嘘)、「文学少女ぶっているくせに『奉仕』という言葉がわかっていない」と姉を嬲る際に口にする台詞も姉妹の個性に留意した目の付け所がイカしています。また第七章の「姉妹獄 陵辱鬼の中心で隷属を叫ぶ」という章題に対するパロディの効かせ方などにも作者のセンスを感じさせる一冊で、王道の中に感じられるこうしたユーモアゆえか読後感においても悲壮さはナッシングで、むしろあっさりとしています。綺羅光のハードな物語はちょっとなァ、もう歳だし、……なんてロートルの方もカジュアルな王道陵辱路線を愉しめる一冊としてオススメできるのではないでしょうか。
[関連記事]
熟女家政婦と僕【青い初体験】 / 鷹山 倫太郎