相も変わらずKindle Unlimitedの中の黒本から一冊。本作もまたKindle Unlimited読み放題ストアでは、「人気」タグのついている作品なのですが、今まで読んだものと同じ長編かと思ったら、「美人社員 羞恥虐地獄」、「美人課長 恥虐地獄」、「美人OL 恥縄地獄」の三編を収録した短編集でした。
「美人社員 羞恥虐地獄」は、社長の次男坊といいカンジになっていたOLが突然男に襲われ、そのままマゾ地獄に堕ちていくという話なのですが、ヒロインや強姦男の背景もまったく明かされないうちにレイプが始まり、気がついたらヒロインは感じまくってマゾに堕ちてた、――という舌足らずで説明不足な展開が逆にシュールすぎる雰囲気を醸し出しています。個人的には、キチンとヒロインがどんな人物でどんな立場なのかが明示されたあと、彼女がマゾ女へと覚醒していくその過程を外面内面からじっくりネットリと描き出した作風の方が好みなので、これはちょっと、……という感じでしょうか。あくまで個人的な好みの問題ではありますが。
続く「美人課長 恥虐地獄」においてもマッタク同様に、取引先からご無体な要求をされた美人課長が仕事のためとはいえ、あっさりと裸になったり性行為に及ぶというのはいかがなものか、ヒロインは頭が悪すぎないかい?……と最初のあたりは疑問を感じながら読み進めていたのですが、しばらくすると不思議とふっきれてしまい(爆)、「こういうモン」だと判ってしまえば、むしろヒロインの痴女にしてその頭の悪さを愉しんでしまえるから不思議なもの。急転直下で気がついたらもう秒速でマゾ堕ちしてた、という性急な展開で魅せてくれる作風ゆえ、ヒロインが一応、「私、なんでこんなに感じちゃうの……」みたいなモノローグこそあれど、それはあくまで刺身のツマと同じ添え物と見なすべし。ヒロインの感じ方や嗜虐者が披露する様々なSMプレイよりは、ヒロインの頭の悪さばかりが際だってしまうところはかなりアレで、マゾ堕ちの結果よりはその過程をつぶさに眺めて愉しみたいという自分のような読者にはやや不満が残るものの、とにかく早く早く官能プレイが見たいんダイ、なんていうせっかちな読者にとっては、本作は満足できること請け合いです。
最後の「美人OL 恥縄地獄」は、隣に越してきた怪しいカップルに興味を持った隣人のボーイが二人の羞恥プレイに巻き込まれるという物語で、これは笑いながら愉しめました。あくまでボーイの視点から、SMカップルの痴態を眺めやるという趣向が秀逸で、二人のプレイの出汁にされたボーイが戸惑いながらもカップルの勢いに流されていく展開が面白い。もちろん平凡である筈のOLがいっさいの躊躇いもなくアッケラカンと、――一応羞恥”プレイ”だから恥ずかしがってはいるんですが、それもまた演技であることはボーイも読者も百も承知――様々なプレイを楽しんでいる様を見ていると、怪しい雑誌の読者投稿にやる気満々で投稿をこなしている紳士淑女の方々というのは、こういう人たちなんだろうなァ、……なんて妙な感慨に浸ってしまうのでありました。
「羞恥虐地獄」に「恥虐地獄」、さらには「恥縄地獄」と「恥」に「地獄」と凄烈な言葉こそ並んでいますが、「恥」はあくまで痴女の演技に過ぎず、また登場人物たちにとってはその「地獄」もまた「極楽浄土」に違いない、――そんな官能小説ならではの倒錯を垣間見ることの出来る本作は、SMものというよりは、痴女ものと読むのが適切カモしれません。自分のような好みの方にはちょっとアレですが、「時間がないから、すぐに”使える”」逸品をご所望の紳士におかれましては、なかなか「実用的」な一冊といえるのではないでしょうか。